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術後点眼はいつまで?
一方、点眼薬は、どの眼科医院でも、抗生物質、ステロイド性抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤の3種類が処方されます。それぞれ、1日4回点眼します。 なお、岡山大学では「抗生物質の全身投与(点滴、内服)は不要」と発表しています(白内障術後に予防的抗菌薬(抗生物質)の全身投与は必要か? )。
点眼は3ヶ月も必要? 点眼の期間については、次のような説明があります(術後点眼薬はいつまで | 伊丹市の眼科|宮の前眼科)。
「術後の点眼薬は術後の炎症をおさえ、傷口を細菌感染から守るために大変重要な薬で、最低約3ヶ月必要です」(おおや眼科クリニック) 「基本的には3カ月は毎日しっかり点眼」(白内障治療専門サイト アイケアクリニック) 「基本的に1ヵ月半から3ヵ月くらい」(森井眼科) 「手術後2か月」(岡山市北区の眼科−小山眼科医院) 「手術後の点眼薬は2-3ヶ月使用」(表参道眼科マニア) 「通常は術後2〜3ヶ月程度」(中島眼科) しかし、本当に3ヶ月も必要なのでしょうか。 角膜上皮が異物の侵入をブロック まず、感染予防で処方される抗生物質について、考えて見ます。 白内障手術では、角膜に小さな切れ目を入れます。そして、傷口を縫合せずに手術が終わります。となると、傷口から細菌が侵入しないか気になります。 角膜は、上皮、実質、内皮によって構成されています(18.角膜の病気|目と健康シリーズ|三和化学研究所)。白内障手術では、切れ目は、黒目と白目の境目辺りに入れます。物を見るのは、黒目の中心部ですから、周辺部に切れ目を入れても特に影響はないものと思われます。 ![]() 角膜上皮は、「皮膚をもたない角膜を守るバリアとして働いています。また外気から直接酸素を取り入れ、血液が通っていない角膜の細胞に供給しています。細胞同士が涙も通さないほどしっかりと組み合わさっていて、異物の侵入をブロックしています(18.角膜の病気|目と健康シリーズ|三和化学研究所)」ということですから、細菌の侵入から組織をがっちりと守っているようです。 ![]() 角膜上皮の新陳代謝の仕組みは次のようなものであると考えられています(角膜上皮幹細胞移植 - J-Stage)。上皮細胞は表面部分(Z)がはげ落ち、基底細胞が分裂し(X)はげ落ちた部分を埋めます。基底細胞には寿命があり、黒目の周辺部(角膜輪部)にある幹細胞が分裂し基底細胞を供給します。このようにして、角膜上皮は定期的には新しい細胞に入れ替わります。 ![]() 角膜上皮の細胞は、5〜7日ほどで新しく生まれ変わるということです(角膜に傷がついたらどうなる?角膜の傷(角膜ダメージ)の原因・症状・ケア方法)。
このように、「創傷治癒が大変遅い」ということは分かったのですが、ではどれぐらいの期間がかかるのかというと、ネット上では具体的な情報は見つかりません。 ただ、「砂ぼこりなどで目が汚れる可能性がある競技や、目を打撲する可能性がある競技は、1か月は控えてください(7.仕事・運動はいつからできますか? | 公益社団法人 日本眼科医会)」ということですから、1ヶ月経てば打撲にも耐えうるまで十分修復するといえそうです。 術後眼内炎は医療ミス? 白内障手術における、角膜の切れ目の入れ方は次のようになっています(白内障手術パーフェクトマスター)。切開の方法は2種類あり、角膜切開(左)は黒目と白目の境目から斜めに切れ目を入れます。強角膜切開(中央と右)は白目から斜めに切れ目を入れます。角膜切開は角膜の切れ目が露出することになりますが、出血はありません。強角膜切開は角膜の切れ目が露出しませんが、出血することがあります。私の場合、手術後に白目がかなり充血していたので、強角膜切開だったのかもしれません。いずれの方法でも、眼圧で傷口が押さえられるので、縫合の必要はありません。 ![]() 角膜の表面は涙で覆われていて、「涙にはリゾチームという殺菌作用をもった物質が含まれており、微生物の侵入や感染を予防する働きをします」(涙の働きと構造|大塚製薬)。 手術後に細菌やウイルスが侵入する可能性があるのは、角膜の切り口からですから、角膜上皮が修復されれば危険はなくなると思われます。そこで、「手術後の感染症を防ぐため、術後1週間の洗顔・洗髪は控えてください(白内障手術を受ける方へ 知っておきたい白内障術後のケア)」と指示されます。 細菌やウイルスが侵入すると「急激な視力低下、霧視、眼痛を自覚し、充血」が起こりますから(感染性眼内炎)、患者自身が異変に気づくはずです。術後の眼内炎は、2000から3000例に対して1件の割合で起き、手術中に強毒菌が侵入して炎症を起こすものだそうです(術後眼内炎とは)。つまり、この説明からは、術後眼内炎は角膜の切り口から細菌が侵入することにより引き起こされるものではないということになります。手術中は、開いた切り口から器具を挿入するのですから、手術後の切り口が閉じた状態より、格段に危険度が増すことは容易に想像できます。
術後眼内炎で医師の過失を認めた地裁判決では、次のように判断しました(白内障手術における合併症と過失について メディカルオンライン医療裁判研究会)。
このような医療事故が一定の割合で起こりうるのであれば、予防的に抗生物質を点眼して置く必要があるとも言えそうです。 しかし、次のように術後眼内炎を引き起こす細菌の種類は様々です。
上記裁判例における薬剤の予防的投与は次のとおりです。この事例においては、予防的投与の効果はなかったようです。なお、「水晶体後嚢破裂の頻度は,4パーセント程度」というのには、少し驚きました。
実証データは少ないものの、行う方が良い? 前述のように疑問の余地はあるものの、細菌が侵入する可能性が皆無とはいえないから、念のため抗生物質を予防的に投与しておくという考え方もあります。 しかし、抗生物質には耐性菌が生じるという重大な副作用があります(抗生物質の乱用が招く「耐性菌」の脅威って?)。 公益社団法人日本化学療法学会の【脳神経外科および眼科】術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン(追補版) では、抗菌薬の予防的投与について、次のように説明しています。
ジクロードだけで十分? 「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」では、術後点眼について次のように勧告しています(「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」 )。
点眼の目的は、術後炎症・黄斑浮腫の発生予防ですが、「ジクロフェナックナトリウムの術後点眼はステロイド点眼と同様に術後炎症を抑え」「術後黄斑浮腫はジクロフェナックナトリウムを使用したほうが発生頻度が低い」ということですから、 術後炎症予防については、ジクロード(ジクロフェナックナトリウム)は、ステロイド性抗炎症剤と同様の効果があり、黄斑浮腫予防については、ジクロードの方が、より有効ということになります。 術後炎症については、「手術後角膜が腫れたり、眼圧が上がってしばらく見えにくい場合があります。」という説明もありますが(白内障手術について|白内障の診療|中部眼科)、眼圧上昇という副作用の危険があるステロイドを、術後炎症予防に使うのは矛盾しているようにも思えます。 そもそも、「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」では、ステロイド性抗炎症剤と非ステロイド性抗炎症点眼薬を併用することは、勧告していないのですから、ジクロードだけを点眼しておけば、良いようにも思われます。 角膜上皮損傷の修復が遅れる 抗生物質やステロイド性抗炎症薬には重大な副作用がありますが、非ステロイド性抗炎症薬にも副作用があります。ニッテン(ジクロフェナックナトリウム)の説明書には、次のような記載があります。
術後点眼が本当に3ヶ月も必要なのか、という疑問から検討を続けてきましたが、そもそも術後点眼が本当に必要なのか、その効果と弊害について個々の臨床医が自ら十分に検証した上で指示しているのか、懸念さえ生じて来ました。 |