緑内障の治療とは
緑内障患者の7割は眼圧が正常 緑内障には、眼圧が正常なものと、眼圧が高いものがあります。眼圧が正常なものは、正常眼圧緑内障とよばれ、日本人の緑内障の7割はこのタイプだと言われています(緑内障の診断と治療)。 眼圧が高いものには、他の病気などに伴って眼圧が上昇しているもの(続発緑内障)と他に原因がないもの(原発緑内障)があります。それぞれに、隅角が開いているもの(開放隅角)と狭くなっているもの(閉塞隅角)とがあります。そのほか、発達緑内障もあります。
原発閉塞隅角緑内障は、急性の場合は、眼圧が急上昇し、激しい頭痛、眼の痛み、嘔吐などが生じます。視神経に障害を与え、一晩で失明してしまうこともあります。出典は示されていませんが、「緑内障による失明者の約半数はPACGである」という説明もあります(原発閉塞隅角緑内障の新しい分類:国際分類と. 新緑内障ガイドラインについて)。 多治見スタディで驚くべき結果 先に、正常眼圧緑内障は、日本人の緑内障の7割を占めていると述べましたが、その根拠となっているのは、多治見スタディと呼ばれる疫学調査です。 この調査は、日本緑内障学会が、2000〜2001年に多治見市の40歳以上の住民3,021人を対象に行ったものです(「日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(通称:多治見スタディ)」報告)。 調査の結果、住民の5.0%に緑内障が認められ、その内訳は原発開放隅角緑内障3.9%、原発閉塞隅角緑内障0.6%、続発緑内障0.5%でした。さらに、原発開放隅角緑内障3.9%の内訳は、高眼圧0.3%、正常眼圧(21mmHg)3.6%でした。 このように、緑内障患者の7割は正常眼圧であるという驚くべき結果が明らかとなりました。 従来は、高い眼圧が視神経に障害を与えるのが緑内障の原因であるという前提に立って、点眼薬で眼圧を下げるという治療が行われてきました。しかし、緑内障患者の7割は正常眼圧であるということになれば、眼圧以外にも原因があることになります。 となると、正常眼圧緑内障患者については、従来から行われてきた、点眼薬で眼圧を下げるという治療が、あまり意味がないのではないかという疑問が生じます。 誤った先入観?短絡的な発想? この点について、日本眼科学会では、「正常眼圧緑内障でさえも、眼圧をさらに下げることで病気の進行を遅らせることができる可能性があります」と説明しています(日本眼科学会>緑内障治療)。 また、緑内障の診断と治療では次のように述べています。
「NTGの治療には眼圧下降よりも循環改善効果や神経保護効果を持つと言われる治療薬を用いる方が良い」⇒短絡的な発想は,強く戒められるべき という論調で、従来からの点眼薬治療を見直すことに対しては、強い拒否反応を示しています。 もっとも、「眼圧依存の可能性が低いと推測できる症例が多く、機序の異なる疾患が混在していることは否定できない」ことは認めています。しかし、緑内障患者の7割は眼圧が正常ですから、「機序の異なる疾患」が多数を占めている可能性は、否定できないと思われます。 有効性の根拠は、もっぱら欧米の試験データ 正常眼圧緑内障患者についても、従来からの点眼薬治療を見直す必要がないと言うのなら、その有効性が科学的データによって立証されていなければなりません。 その点について、「緑内障治療薬の臨床現状と 今後の治療薬に期待すること」という論文は次のように指摘しています。
「眼圧が高い開放隅角緑内障から連続した疾患スペクトルに含まれると考えることもできる」というのは、眼圧が高い患者には効果があるのだから、眼圧が低い患者にも効果が期待できるという意味なのでしょうか。 そんな推測に頼るのではなく、きちんと調査をすべきではないかと、私は思います。 正常眼圧緑内障患者の3分の2は症状が進行しない このCNTGSについては、次のような興味深い指摘があります( 数多の見解 生涯“点眼”継続-今日の常識は明日の誤解に-|誤解から学ぶ緑内障|小野原いくしま眼科)。
中断回避のための調査が皮肉な結果 新型コロナウイルスワクチンですっかり有名になったファイザー株式会社ですが、2012年に「緑内障患者の治療実態調査」を行っています。 この調査の目的は、「点眼治療の中断経験者の割合とその中断理由を探り、治療中断回避のための方策を探る」ことにあります。つまり、点眼治療を中断させないための方策を検討するための調査です。点眼治療を中断したらどうなるかを調べた調査ではありません。 調査の対象は、点眼治療を受けている900人で、40代、50代、60代それぞれ300人ずつ、男女比は150人ずつで同数です。 調査対象者の緑内障のタイプ別内訳は次のとおりです。タイプが分かっているうちでは、正常眼圧緑内障が7割近くを占めています。 一時的な中断経験者も含めると、自己判断による点眼治療中断率は18.7%(168/900人)でした。点眼治療を中断した理由の上位は「大した症状がない」44.6%(75/168人)、「継続受診が面倒」35.7%(60/168人)、「治療効果が実感できない」33.3%(56/168人)などでした。 「医師から緑内障の点眼治療を中断したことにより、視野欠損が進行した可能性があると 指摘されたことはありますか?」という質問に対しては、70%が「ない」と答えています。この数値が、医師の診断を受けた結果であるかどうかについては、説明はありません。しかし、点眼を中断しても視野欠損が進行しないという例は、相当多くあることは推測できます。治療中断回避のための方策を探るための調査が皮肉な結果をもたらしたと言えそうです。 |