超長眼軸にも利点
(2021/5/22) 
 私の目の眼軸の長さは、左が28.86mm、右が29.23mmです。一般成人の眼軸の長さは23〜24mmだそうですから、極端に長いことになります。
 眼軸が長いと遠くは見づらいですが、近くはよく見えます。しかし、これだけ長くなるときちんと見える範囲は、せいぜい20センチまでの距離なので強度の近視ということになってしまいます。ただ、超長眼軸は、眼内レンズに関しては、有利な側面もあるようです。

眼軸が長くなるのが、近視の主な原因
 一般的に生まれた直後は17mm程度で、次第に成長して14〜15歳で完成するそうですから( 医学豆知識|東海大学医学部付属大磯病院/No.101 子供の目の成長)、年に0.5mm伸びる計算となります。
一般成人の眼軸(がんじく:角膜から網膜までの距離)は23〜24mmです。ヒトは、生まれた直後の眼軸は17mm程度ですが成長し、14〜15歳で完成すると言われています。
 近視は、近くを見続け毛様体筋が過度に緊張して凝り固まって、遠くが見えなくなったものと、私は単純に思い込んでいました。しかし、最近では、眼軸が長いため、遠くにピントが合いにくいのが、近視の主な原因と考えられるようになっているようです( 「近視」の原因と対策 | ロート製薬)。 
近視にもいくつか種類がありますが、ほとんどの近視は、「眼軸(がんじく)」と呼ばれる目の奥行の長さ「眼軸長(がんじくちょう)」が、正視の目よりも長くなっていることが理由です。日本人の正視の人の眼軸は24mmほどといわれています。このほか、角膜や水晶体の屈折力が強すぎることによる近視もあります。

 しかし、どうして近視になるのか原因はよく分かっていないようです( 子供が近視といわれたら 3.目を使いすぎると近視になるの?)
近視の原因についてはよく分かっていませんが、遺伝因子と環境因子が複雑にからんで起こると考えられています。そのため同じように近くを見る作業に熱中しても、近視になる子とならない子がいるわけで、目を使いすぎると必ずしも近視になるとは限りません。
そうはいうものの、ネパールで、地方の学校と都会の学校で近視の頻度を比較したところ、近くを見ることの多い都会の学校の子どもに、近視が明らかに多いという報告もされています。近くを見ることが多いという環境因子は、やはり近視の発生や進行に重要な役割を果たしていると思われます。

近視は近くを見るのには最適な目
 近視は環境に順応した結果ともいえるのであって、「近視は近くを見るのには最適な目」という肯定的な意見もあります( 屈折異常と眼精疲労 5.近視って?)
「近視ってどんな目?」ときくと、たいていは「遠くが見えない目」と返ってきます。正しくは「近視は近くが見える目」なのです。
近視はメガネなどの助けをかりなくても、近くにはピントが合います。しかし、裸眼では、どんなに努力をしても、遠くにはピントを合わせることができません。したがって、必要に応じてメガネなどの装用が必要です。メガネを用いないで本を読むことができれば、本を読むときに、ピント合わせのための努力はほとんど必要ありません。すなわち、近視は近くを見るのには最適な目なのです。
 遠くを見るための道具であるメガネやコンタクトレンズを使って近くを見続けると、強い眼精疲労を生じます( 屈折異常と眼精疲労 6.近視の眼精疲労)。
近視の多くはメガネやコンタクトレンズを作成するときに、遠くがよく見えるように作っています。
そのようなメガネやコンタクトレンズを用いて、読書をしたり事務作業をしている人の多くは、強い眼精疲労を生じています。25〜35歳頃から症状が出はじめ、その後徐々に症状が強くなってきます。しかし、近くがぼけて見えるとか、近くが見にくいとかは感じませんので、近くを見ているときに強いピント合わせのための努力が必要になっていることに気付いていません。

子供の視力は落ちている
 小中高生の裸眼視力が1.0未満の割合は、年々増加しているそうです(視力1.0未満の小中高生が過去最多、学校保健統計調査 | リセマム)。 

 戦前の中学生(今の高校生)も、結構近視が多かったそうです( 学校区における近視の変せんと最近の視力測定法 小堀富次雄照明学会雑誌1978 年 62 巻 9 号 p. 478-479)。 


1.0以上の視力でなければ正常ではないのか
 学校の視力検査は、今は「370(サンナナマル)方式」で行われています。
 検査は視力0.3/0.7/1.0の3つの視標だけで行い、結果は、次のようなABCDの4段階に区分して示されます(学校での視力検査 | 大阪府眼科医会)。
A 1.0以上 
B 0.7〜0.9:学校生活にはほとんど支障はない 
C 0.3〜0.6:教室での授業に多少の影響が見られる
D 0.2以下:教室の最前列でも黒板の字が見えにくい
 A以外は、「医学上、正常な視力に相当しない」とされ、保護者には「受診勧告のお知らせ」が配られます。
 しかし、自動車の運転免許は、メガネをかけていても、両眼で0.7以上あれば構いません。
 また、旧日本軍や自衛隊で必要な視力は次のようになっています( アニメンタリー決断大事典喜べ「メガネ君」!身体検査等の基準について|自衛官募集ホームページ)。
旧陸軍士官学校 裸眼視力が1.0以上 
旧陸軍甲種合格  裸眼視力が0.6以上 
1945年改正  裸眼視力が0.3以上かつ矯正視力が0.8以上 
自衛官  裸眼視力が0.6以上又は矯正視力が0.8以上 
 旧日本軍でも、徴兵検査の甲種合格は0.6以上の裸眼視力が要求されたものの、末期には0.3の裸眼視力があれば良いとされました。近視でも強度でなければ、乙種合格となり兵役は逃れられませんでした。自衛隊では、0.6の裸眼視力があれば良いし、強度の近視でもメガネをかけて0.8の視力があればOKです。
 つまり、学校の視力検査のB判定程度の裸眼視力でも、自衛隊の一般的業務に支障はないことになります。また、一般人の場合、室内で過ごすことが多ければ、0.3〜0.4ぐらいの視力があれば十分ですから、C判定程度の視力でも、日常生活に不便はありません。
 したがって、B判定やC判定でも、日常生活に支障がないと本人が判断するなら、メガネなしで過ごすという選択もあると思います。伸びた眼軸は元に戻すことはできないのですから、「医学上、1.0以上の視力でなければ正常ではない」として受診勧告することに、何の意味があるのでしょうか。


 以上をまとめると次のようになります。
 ・幼児は遠視である
 ・成長とともに眼軸が伸び、次第に遠くが見えなくなる
 ・遺伝的要因として、成長の過程で眼軸が少し伸びすぎる者もいる
 ・環境的要因として、近くを見すぎることで眼軸が伸びる者もいる
 ・眼軸が少し伸びても、B・C判定に留まるならさほど重大な問題ではない

負の連鎖に、どっぷりはまって
 私は、子供のころは遠くがよく見えていて2.0の視力が出ていました。中学3年になると遠くが見えづらくなり、高校のときはメガネをかけていました。高校を卒業後、メガネをはずし裸眼で生活していましたが、本を読んだりテレビを見るのに特に不便は感じなかったので、軽い近視の状態だったと思います。
 20歳近くになって、コンタクトをはめるようになりました。本を読むとすごく疲れたので、強い眼精疲労だったのだと思います。そして、気がついたら強度の近視となっていました。
 以上から判断すると、私は、近くを見すぎることで眼軸が伸びやすい体質のようです。眼軸が伸びやすいということは、近くを見る生活に順応しやすい体質ともいえます。眼軸が伸びれば、目に過度な緊張を与えず近くを見ることができます。しかし、度の強い近視用メガネをかけたまま近くを見ると、過度な緊張を与えることになりますから、さらに眼軸が伸びます。すると、遠くが見えにくくなるので、さらに度の強い近視用メガネが処方されます。
 この負の連鎖を避けるためには、近くを見るときには、メガネをはずすというのが最善の方法です。しかし、コンタクトの場合は、つけはずしが面倒です。また、強度の近視になると、極端に目を近づけないと本が読めません。それで、近くを見るときもメガネが必要になりますが、度の強い凹レンズを通すと物が小さく見えるので、どうしても目を近づけ勝ちになりまする。すると、目に過度な緊張を与えることになるので、ますます度が進むことになります。

眼には2枚のレンズ
 眼球の水平断面図は次のようになっています(水の中で眼が良く見えないのはどうして? 魚類の水晶体が球状なのは?: 光と色と)。

 角膜と水晶体が凸レンズで、眼房とガラス体は液体で満たされています。水晶体は弾力のあるラグビーボールのような形で、チン小帯により引っ張られ少し平べったくなっています。近くを見るときは、毛様体が盛り上がりチン小帯の引っ張りが緩み水晶体が少し厚くなります。
 房水は、毛様体から分泌されて、眼球内を循環しています(眼圧ってなんですか?)。房水は、水晶体に栄養を与え、代謝産物を洗い流すなどの役目を担っています。

 水晶体は、数種類の透明な細胞で出来ています(水晶体の構造と再生)。これらの細胞が、様々の原因により濁るのが白内障です。白内障手術では、水晶体嚢は残し、濁った細胞だけをレーザーで砕いて吸い出し、眼内レンズを挿入します。チン小帯はそのまま残すので水晶体の位置は維持されます。

 角膜と眼房とガラス体の屈折率は、ほぼ同じで、水晶体だけ少し大きくなっていますが、屈折力は角膜が3分の2を占めています( 眼光学の基礎)。角膜の屈折力が大きいのは、空気(屈折率1.000292)との、屈折率の差が大きいからです。屈折力は、屈折率の差と入射角の大きさによって決まります。
  屈折率  屈折力 
角膜  1.335〜1.337 43D程度
眼房  1.335〜1.337  
水晶体  水晶体核で約1.40、表層部で1.38程度  20D〜30D
ガラス体  1.335〜1.337   
 虹彩は角膜と水晶体の間にあって、眼に入る光の量を調節しています。虹彩が広がると瞳孔(黒目)が狭まり、虹彩が狭まると瞳孔が広がります。目の色とは、虹彩の色のことです。人の目の色は茶色のメラニン細胞の量によって決まるということです。メラニン細胞が少ないと、光が反射して青や緑に見えるそうです( 目の色が人によって違う理由とは?科学的根拠をもとに解説!)。カラーコンタクトは、虹彩に重なるように色を付けたレンズです。虹彩が広がった状態で重なるように色の付いた部分の幅は多めになっているので、暗いところでは、光の量が不足して物が見えにくくなります。

 カメラでは、2枚の凸レンズの距離を変えることにより、トータルの屈折力を変化させて焦点距離を調節します( 像面位相差AF(オートフォーカス)の原理)。 

焦点深度の作用により、見える範囲を広げる
 眼内レンズは厚みを変えることは出来ないので、水晶体のように焦点距離を調節することは出来ません。ただし、毛様体とチン小帯は残っているので、特殊なレンズを使えば調節は可能なようです(調節眼内レンズアップデート)。
 したがって、一般的な眼内レンズでは 、もっぱら焦点深度の作用により、ピントが合って見える範囲を広げます。
 カメラの焦点深度と被写界深度の関係は次のようになります(焦点深度、被写界深度、絞りとの関係)。これを人間の眼に置き換えると、カメラのレンズは、角膜+眼内レンズ、イメージセンサーまでの距離は眼軸の長さになります。私の場合は、焦点距離が40センチになるように眼内レンズの度数を指定したので、赤線のように合焦位置までが40センチで網膜(イメージセンサー)にピントが合っています。被写界遠点は約60センチで、緑線のように網膜の前に焦点が合っているので網膜の像は少しぼやけてますが、許容錯乱円に収まっています。被写界近点は約20センチで、青線のように網膜の後に焦点が合っているので網膜の像は少しぼやけてますが、許容錯乱円に収まっています。

  眼軸が短くなると、焦点深度と被写界深度の関係はどうなるかを、上のイラストを加工してシミュレーションしてみました。焦点距離が40センチになるようにするためには、 眼軸が短い分だけ眼内レンズの度数を上げる必要があります。すると像のぼやけ具合が大きくなるため、焦点深度と被写界深度はより浅くなる(ピントの合っているように見える範囲は狭くなる)と予測されます。なお、昼間の強い光の下では瞳孔が小さくなりレンズの縦の長さが短くなりますから、レンズの度数を落とした場合と同様に像のぼやけ具合が小さくなるため、焦点深度と被写界深度はより深くなります。 


眼軸が長い方が有利
 一般成人の眼軸の長さは23〜24mmで、角膜+水晶体の屈折力は60D〜70Dです。水晶体は、20D〜30Dぐらいの範囲で屈折力を変えることができ、トータルの屈折力の調節は、もっぱら水晶体で行います。
 眼軸が通常の長さなら、60D〜70Dの屈折力で遠くから近くまでピントを合わせることができます。年齢とともに水晶体の弾力が低下し、十分に厚くできなくなると近くが見づらくなります。これが、老眼といわれるものです。
 眼軸が少し長いと、像が網膜より前で結ばれることになるため、遠くが見にくくなりますが、近くは良く見えます。水晶体の調節力がおとろえても、もともと、近くは良く見えているため、老眼はあまり顕在化しません。
 眼軸が通常の長さなら、眼内レンズの度数は20D〜30Dぐらいが適当ということになります。ただし、水晶体のような調節力はないので、鮮明に見える範囲は狭くなります。遠方を優先するなら20Dぐらい、近方を優先するなら30Dぐらいといったところでしょうか(素人の個人的見解ですが)。なお、一般的な眼内レンズは、6Dから30Dまで、0.5D刻みで製造されているそうです。 
 私は、左が28.86mm、右が29.23mmと超長眼軸です。焦点距離は40センチを指定し、レンズの度数は、 左12.50D、右11.00Dとなっていますから、通常に比べ3分の1程度です。水晶体では、有り得ない薄さです。これだけ薄いレンズだと、 遠くも結構良く見えています。
  眼内レンズに関しては、眼軸が長い方が有利といえそうです。