乱視は軸ずれに要注意
片目で物が二重に見えるのは白内障 私は、強度の近視だったので、普段は弱めの度数のメガネをかけていました。それで、白内障が進んでも、視力の低下に気が付きませんでした。白内障を自覚したのはものが二重に見えるようになってからです。 ただし、二重に見えるのは一定の条件が重なったときだけです。昼間、少し離れたところにある街路灯が二重に見えましたが、それ以外のものは二重に見えるという認識はありませんでした。 最初は、どうして街路灯が近接して2本も立っているのだろうと、不思議に思っていましたが、近づいてみると1本であることが分かり、ようやく見え方の異常に気が付きました。仔細に確認してみると、左右の片目で見ただけでも、それぞれ像が2つに見えていましたが、一方の像は明瞭で、もう一方は少しぼやけていました。それが、両眼で見ると、くっきりと二重に見えました。 この街路灯には蛍光塗料が塗ってあるようで、ひときわ鮮やかに目立っているので、このような見え方に影響したのかもしれません。 なお、左右の片目で見ただけでも、それぞれ像が2つに見えるのは単眼複視といいます。左右の片目ずつでは1つに見えるのに、両眼で見ると2つに見えるのは両眼複視といいます。両眼複視は脳に異常がある恐れもあるので、事態はより深刻です。
人の目は、左右いずれかが利き目となっています。調べ方は次のとおりです(利き目ってどういうこと? どうやって決まるの?)。 左右の目は離れているので見え方は異なります。にもかかわらず物が一つに見えるのは、脳が利き目の情報を優先し、他方の目の情報を距離感をつかむため補助的に使っているからです。両眼で見ると像がダブって見えるのは、脳がこのような情報処理を行えていない可能性があるので、事態はより深刻なのです。 単眼複視と乱視は違う? 乱視が酷くないなら、なぜ物が二重に見えるのでしょうか。 そもそも乱視には、不正乱視と正乱視があります。不正乱視は角膜表面が凹凸になっているもので、正乱視は角膜や水晶体がラグビーボールのようにいびつになっているものです。 乱視は、一般的には角膜の正乱視を指すことが多いようです。正乱視では縦軸と横軸の長さが異なるため、光は正しく焦点を結ぶことができず、ものがぼやけたり二重になったように滲んで見えます( 【メガネ屋監修】ほとんどの人が持っている「乱視」メカニズムや改善法を解説)。 乱視は、たとえば横軸のピントが合っても、縦軸はピントが合わないのでぼやけて見えます。鮮明な2つの像が横にダブって見えることはありません。また、遠くのものだけがぼやけて見えるということもありません。つまり、私に生じた単眼複視は、乱視とは異なったものといえます。 ではなぜ、鮮明な2つの像が横にダブって見えるのでしょうか。 この点については、「回折現象が複数の箇所で生じると複視の原因になる」という説明もありますが( 白内障による複視(片目で2つに見える))、あまり良く分かりません。 そこで、なぜ単眼複視になるのか、私なりに推論してみました。 白内障では、次のように水晶体の屈折率が変化します(画風が変わったのは白内障が原因!?)。
遠近両用コンタクトレンズでは、遠くを見るときは近用部のデータは像を結ばないので無視されます。一方、近くを見るときは遠用部のデータは像を結ばないので無視されます。しかし、白内障となった水晶体では、中央部と周辺部の屈折率は極端には違わないので、脳は像が2つあると認識します。強度近視では遠くはぼやけてしまって分かりませんが、メガネをかけると、遠くの像もダブって見えます。 角膜乱視の度数が判断基準 正乱視は角膜や水晶体がラグビーボールのようにいびつになっていますから、水晶体がなくなれば、乱視も解消されるかというと、そうは行きません。 正乱視は、主に角膜乱視ですから、水晶体がなくなっても乱視は残ります。また、角膜乱視に水晶体乱視が合わさっていることもあります。その場合、水晶体がなくなれば、トータルでは乱視は軽減されそうですが、そうとも言い切れません。 ゆがみの角度が角膜乱視と水晶体乱視で異なり、トータルで乱視が軽減されている場合もあるからです。 たとえば、左のイラストの場合です( 乱視用眼内レンズの有効性について)。 一番上が角膜乱視で、度数は−1.71Dです。 その下が、トータルの乱視で、度数は−0.66Dです。 一番下は水晶体乱視で、度数は−1.13Dです。 角膜乱視と水晶体乱視では、ゆがみの角度が90度ずれていることによって、ゆがみを打ち消しあい、トータルの乱視が軽減されています。 この場合、トーリックレンズ(乱視用眼内レンズ)を入れなければ、乱視は−0.66Dから−1.71Dへと、きつくなってしまいます。したがって、トーリックレンズの要否は、角膜乱視の度数が判断基準となります。 なお、私の手術を担当した眼科医に確認したところ、「乱視は白内障によるものだからトーリックレンズは必要ない」とのことで、角膜乱視の度数についての説明はありませんでした。 角膜のカーブはオートレフケラトメータで測定できますが(乱視の検査方法について)、最新の機械を使えば、より正確な角膜の状態や変化を測定できるそうです(角膜形状検査 TMS-5)。 ぴったり合わせるのは至難の技 トーリックレンズの位置決めは、かなり困難な作業となります。次のイラスト(白内障手術の乱視矯正)のように、角膜のゆがみと、トーリックレンズのゆがみが90度の角度で重なるよう、ぴったりと合わせる必要があります。軸が1度ずれると3%効果は減弱し、30度ずれると矯正効果はなくなってしまうといわれています。レンズの向きをぴったり合わせるのは、まさに至難の技といえます。 従来は、患者の目にマジックで印をつけ、それを目安に眼内レンズの方向を固定するというアナログ的な方法で行われていましたが、デジタルマーカーの技術も登場しています(先端機器(手術)|多焦点眼内レンズを用いた白内障手術|はんがい眼科)。回折型の多焦点レンズでは、同心円状の溝が刻まれていますから、中心を正確に合わせる必要があります。したがって、多焦点レンズでは、デジタルマーカーが威力を発揮します。なお、単焦点レンズでは中心がぴったり合わなくても問題はないそうです。また、単焦点レンズでは、多少の角膜乱視があったとしても、(いわば焦点距離の異なったレンズが合体したようなものですから)むしろ焦点深度が深くなるという利点があるようです。 |