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粘弾剤の入れすぎ?
粘弾剤(粘弾性物質)とは、白内障手術において、クッション材として眼内に注入する薬剤です。主にヒアルロン酸ナトリウムからできているゼリー状の物質で、手術中の空間確保・保持と眼の組織の保護のため使用されます。ヒアルロン酸ナトリウムは、水に溶けやすく、高い保湿力を持っているので、化粧品や点眼薬にも使われており、基本的には人体に有害なものではありません。
粘弾剤は2度注入する
白内障手術は、次のような手順で行われます(白内障手術 |
さだ眼科〜大阪府堺市西区の眼科)。
@角膜の2箇所に小さな切れ目を入れ、粘弾剤を注入し、A水晶体の前面の皮(前嚢)を丸く切り開き、B水晶体を砕き吸出し、再び粘弾剤を注入し、C眼内レンズを挿入します。
つまり、粘弾剤は2度注入することになりますが、最終的にはすべて吸い出します。粘弾剤が残ると術後に眼圧が上昇してしまいます。
眼圧上昇は副作用?
粘弾剤をどれくらい注入するかについては、次のような説明があります(ビスコート
0.5眼粘弾剤)。かなり大雑把な説明ですが、執刀医が適量を判断するということでしょうか。
通常、超音波乳化吸引法による白内障摘出時には0.1〜0.4mL、眼内レンズ挿入時には0.1〜0.3mLを前房内へ注入する。
又、必要に応じて眼内レンズのコーティングに0.1mL使用する。 | 一方、次のような説明もあります。
過量に注入しないこと。〔術後の眼圧上昇の原因となる可能性がある。〕
……
術後は本剤を十分に除去すること。 | 副作用については、次のように説明しています。副作用とは、一般的には、本来の目的以外の結果をもたらす薬理作用を指すものと思われますから、不適切な使用によってもたらされる物理的作用としての眼圧上昇を含めるのには、少し違和感を覚えます。市販後の調査では、眼圧上昇は4.4%ということですから、さほど多くはないようです。
承認時までの臨床試験において、安全性評価対象症例196例中、副作用が報告されたのは3例(1.5%)であり、いずれも眼圧上昇であった。
市販後の特別調査における、安全性評価症例389例中、副作用が報告されたのは19例であった(4.9%)。主な副作用は眼圧上昇の17例(4.4%)であった。 | 私の受けた手術では、粘弾剤の排出は機械を使って自動的に行っていたようです。ということは、機械の設定以上に、粘弾剤を注入しすぎたということでしょうか。
粘弾剤は短期間で自然に排出
残った粘弾剤は、どうなるのか気になりますが、短期間で自然に排出されるようです。
「48時間後にはほぼ……消失する」という説明がありますが(ヒーロンV0.6眼粘弾剤2.3%)、「低分子化されることなく」「血中に移行した」という表現からは、房水とともに排出され、血液によって肝臓に運ばれ処理されるものと推測されます。
ウサギの眼球の前房内に投与したヒアルロン酸ナトリウムは、低分子化されることなく48時間後にはほぼ100%が前房隅角から消失する。
血中に移行したヒアルロン酸は主に肝臓で単糖に代謝され、その後糖蛋白質合成に再利用されるものと、二酸化炭素に分解されるものがあると考えられた。 | 一方、「24時間で房水中から消失」という説明もあります(眼科手術補助剤)。
動物における吸収、分布、代謝、排泄
ウサギ前房内に注入された本剤は、24時間で房水中から消失し(生物学的半減期は1.4時間)、虹彩、強角膜接合部及び角膜に分布する。
ウサギ前房内に注入された本剤の大部分は、注入時の分子量のまま房水中の蛋白と複合体を形成して隅角部房水叢から排泄されるが、一部は虹彩リソゾーム内に取り込まれ、ヒアルロニダーゼにより分解される。
なお、体内に入ったヒアルロン酸ナトリウムの代謝は主に肝臓で行われるが、大部分が呼気中にCO2として排泄され、一部尿中に低分子体がみられる。糞及び胆汁中へはほとんど排泄されない。 |
ダイアモックスは必要だったのか
ウサギの眼球に投与したヒアルロン酸ナトリウムの残存量は次のように推移しています(
ヒーロン
R 眼粘弾剤2.3%シリンジ0.6mL インタビューフォーム)。
ウサギの眼球の前房内に投与したヒアルロン酸ナトリウムは低分子化されることなく、投与後12時間までは投与量の約92%が房水中に残存したが、48時間までに前房内よりほぼ100%消失した。
ウサギの前房内に先発製剤「ヒーロンV0.6」を50μLにて投与した後のヒアルロン酸の投与量に対する割合
(雌雄2匹ずつn=4/ポイント、平均値±標準偏差)
| このデータが人間の眼球にも当てはまり、そしてヒアルロン酸ナトリウムの残存量が眼圧に関連するとするならば、手術直後の眼圧は12時間持続するものの、その後6時間で半減し、さらに6時間で4分の1に下降し、48時間後には正常眼圧に戻ることになります。
私の場合、左目の眼圧は手術翌日朝には38mmHgまで上昇していました。正常眼圧に比べ24mmHgも上がっています。この時点で手術からほぼ18時間経過していますから、手術から12時間までは相当高い眼圧が続いていたと考えられます。手術当日の夜はかなり眼が痛くて鎮痛剤を飲まないと眠れないほどでした。
手術翌日の午後には26mmHgに下がり、翌々日午後には正常眼圧に戻っていたことになります。
一方、右目の眼圧は手術翌日朝には29mmHgとなっていましたから、正常眼圧に比べ15mmHg上昇していたことになります。手術当日の夜は眼が痛ったものの、鎮痛剤が必要なほどではありませんでした。手術翌日の午後には22mmHgに下がり、翌々日午後には正常眼圧に戻っていたことになります。
結局、ダイアモックスを服用してもしなくても、同じように眼圧は下がったことになります。
また、ヒアルロン酸ナトリウムが残って眼圧が上がったとしても、それは手術をした片方の目だけです。ダイアモックスは内服薬ですから、眼圧が上がっていない目にも影響が及ぶ恐れがあります。また、副作用は全身に及びます。
ダイアモックスを処方することは妥当だったのでしょうか。おおいに疑問を感じます。
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